
日本には全国で3000を超える温泉地と源泉があり、その数は世界一を誇る温泉大国でもある。泉質もそれぞれに違い、中には個性的でひっそりと人里離れたところにある「秘湯」も存在する。有名温泉地では味わえない野趣溢れる温泉を楽しむのはいかがだろうか。この記事では西日本の秘湯をご紹介する。
湯の峰温泉(和歌山県)

湯の峰温泉(ゆのみねおんせん)は和歌山県田辺市にある温泉で、熊野古道(くまのこどう)の参詣道に位置する日本最古の温泉のひとつ。JR紀伊田辺駅からバスで1時間40分かかる秘湯で、世界遺産にも登録され、熊野詣で(くまのもうで)の湯垢離場(ゆごりば)として栄えた歴史を持つ。往時の湯治場を思わせる雰囲気の中、天然の岩風呂「つぼ湯」や温泉の熱湯で野菜や卵をゆでられる「湯筒(ゆとう)」、公衆浴場では一般湯に加え、硫黄成分が感じられる「くすり湯」が楽しめる公衆浴場がある。

泉質は硫黄を含む炭酸水素塩泉で、神経痛やリウマチ、皮膚病、糖尿病などに効果があるといわれている。「つぼ湯」は谷間にある天然の岩風呂で、1日に7回湯の色が変わるといわれ、30分交代制の貸し切り入浴が楽しめる。公衆浴場もあり、一般湯やくすり湯に加え、家族湯が利用できるほか、温泉くみ取り場があり、温泉水を持ちかえることが出来る。
祖谷温泉(徳島県)

祖谷温泉(いやおんせん)は徳島県三好市(みよしし)の祖谷渓(いやけい)にある温泉地で、日本三大秘湯のひとつ。JR大歩危駅からバスで約40分かかり、バスは1日に3便のみ。四国では珍しい源泉掛け流しの温泉で、白い湯の花が浮かぶアルカリ性の単純硫黄泉は「美肌の湯」として知られる。

祖谷渓の深い谷底にあり、露天風呂に入るには、ホテル祖谷温泉のケーブルカーで谷底へと下りなければならない。谷底への断崖は傾斜が42度もあり、ホテルから谷底へ向かうのにケーブルカーで5分かかる。まさに秘湯という趣だが、雄大な自然に抱かれた露天風呂は最高の景色。紅葉の季節には木々の色づく様を眺めながらの湯浴みができる。
洞川温泉(奈良県)

奈良県の天川村(てんかわむら)にある洞川温泉(どろがわおんせん)は修験者(しゅげんじゃ)が登拝する霊峰大峯山(おおみねさん)の麓にある温泉地。標高820mの高地にあり、避暑地としても知られている。洞川温泉へのアクセスは近鉄下市口駅からバスで約70分。かつての宿場町を思わせる昭和レトロな町並みが魅力的な温泉街を散策しよう。

洞川温泉は名水の里としても知られる。洞川温泉は石灰岩質の地層が隆起したところに花崗岩質のマグマが貫入した地域に当たり、大峯山から湧き出る水がそこを通るため、豊富なミネラルを含む天然水をあちこちで汲むことができる。中でも「ごろごろ水」は関西地方から名水を求める多くの人が訪れる名水として知られている。
海潮温泉(島根県)

松江の奥座敷として知られる島根県雲南市(うんなんし)に位置する海潮温泉(うしおおんせん)は、出雲国風土記(いずものくにふどき)にも登場する歴史ある温泉。江戸時代には松江藩藩主・松平不昧公(まつだいらふまいこう)が訪れたとされる。JR木次線(きすきせん)の出雲大東駅からバスで10分ほど。山間の豊かな自然に囲まれた温泉は秘湯の雰囲気もあり、初夏には蛍、秋には紅葉、冬は雪と、四季折々の景色を楽しみながら湯浴みできる。

宿泊できる宿は、島根県内では唯一「日本秘湯を守る会」の会員となっている「海潮荘(うしおそう)」1軒のみ。なめらかな単純温泉はメタケイ酸が含まれるため、湯上がりの肌はしっとり。関節リウマチや腰痛、神経痛や五十肩など、さまざまな効能があることでも知られる。
黒川温泉(熊本県)

黒川温泉(くろかわおんせん)は熊本県の山間の渓谷にある温泉地。熊本空港からはバスで3時間、電車では阿蘇駅からバスとタクシーを乗り継いで1時間20分ほどかかる。温泉街の中心には田の原川が流れ、川沿いに20軒ほどの温泉宿が軒を連ねる。豊富な温泉資源と温泉街全体で進めた環境整備で、国内はもちろん海外からの旅行者にも人気の温泉地になっている。

硫黄泉をはじめ、単純泉、塩化物泉などさまざまな泉質の温泉が湧き出る黒川温泉。杉の木で作られた「入湯手形」を購入すれば、昔ながらの風情が残る温泉街の露天風呂を巡ることもでき、黒川温泉の湯を心ゆくまで楽しめる。藁葺き屋根のバス停があるなど、ノスタルジックな雰囲気の温泉街も魅力。山間の自然も美しく、美しい景色を楽しみながら温泉に浸かることができる。